2003年07月21日(月) |
16話 『キャラバン』 |
傾いだ鉄塔の袂に、群生するムシトリサボテン。 さらにそこに寄生するヤドリギの一種。 サボテンの幹に巣穴を開けている嘴の長い鳥。 風が熱い。
リアラは木陰で子供達に貴重な水を分配している。 疲れ知らずのクヴィスが周囲を見張る。 行程はまだ1/3程度。 あとどれくらいの鉄塔を数えれば、安住の地に辿り着けるのだろう。 「駅」とはいかなるものか…
起伏に富んだ荒地の急勾配を、もうもうと土煙を上げて、 6台のトライホイールのキャラバンがやって来る。 今まで自分たちがあくせく歩んできた長い道のりを、 あっという間に辿り着いてしまった。
木陰で休むリアラ達を見付けたのか、先頭車が止った。 見上げるような車輪。 テレビでしか見た事のない乗り物だった。
横腹の四角いハッチがギィと開いた。 髪を長い3つ編みにした逞しい女がタラップに一歩踏み出す。 紅色の髪に碧眼。 どこかリアラに似ていた。
「こんなところで何を?」
砂と乾燥した空気で荒れた声。
「私達は海辺の農園から逃げてきたのですが…」
リアラが答える。
「どこへ行く?」
「この先にあるという駅まで」
微妙な間が空く。
「そうか。歩いては無理だ。乗れ」
渡りに船とはこのこと。
「……はっ、はい」
一向は、無愛想だが悪人ではなさそうなこの女に気に入られたようだ。 キャラバンの行く先はいつも鉄塔に沿っている。 何故なら彼らの目的は、「虫ガラ集め」だから。 ムシトリサボテンの消化できない羽、外殻などを拾い集めるのだ。 それを粉砕して天然樹脂と交ぜ合わせて、丈夫な板材に成形する。 主に、戦艦や貨物船の建材にされる。
トライホイールの内部は意外と広かった。 生活に必要な物がほとんど揃っている。 乗組員は1台に約10人ずつ。見たところ血族らしい。 独特の訛りがあって聴き取りづらいが、クヴィスの通訳は必要なさそうだ。 リアラ以下8人は、彼らの仕事、つまり「虫ガラ集め」を手伝いながら、 着々と目的地へ近づいていった。
例の3つ編みの女が族長らしい。 名前をモーウィーといった。額に三角の文様の刺青を入れてある。 年齢は若いようで実は高齢だった。50代半ばだろうか。 彼女はリアラの容姿を見て、何か思う所があるらしく、しばし口篭もった。 子供達は「大きいお母さん」と呼んでモーウィーに親しんだ。 他の乗組員達も子供らを可愛がってくれた。
クヴィスのナビによると、あと数日で駅に着くらしい。
つづく
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