湿った裏路地にオンボロトラックが止っている。 その傍らで二人の男が傾いたテーブルに肘を乗せ、 アルコールの入ったグラスをくゆらせる。
「そりゃあ大変だったなぁ」
赤い鼻の男がしんみり言った。
「しかし、村人達は皆親切でしたから」
とドーラ。
「で、そのイカした外套をくれたのは女か?」
「まさか。」
「まぁいいさ。はは」
「昨今海賊はだいぶ圧されているようですね」
「例の新設海軍のリーダーがな、つわものらしい」
「事実上、ギルド叩きですね」
「まあな」
「丘に落ちた賊達が、今度は方舟を襲うようになるんでしょうか」
「どうだか・・・」
酒をクイっとあおるモーズ。 「こらぁー」とトラックに悪戯している子供達を叱りつける。
「いろいろあったが、お前さんが帰ってきてなによりさ」
「・・・・・・」
「どうした?」
「ええ。私はここを離れようかと考えています」
「まさか海軍にでも志願すっか?」
「そうじゃないんです。あの北の駅です」
「あ〜んな辺境で何を」
「それは、今はまだ言えません」
「よくわからんが、オレに出来ることがあったら何でも言っとくれや」
「遠慮なく」
ほろ酔いかげんで見上げると、 ジオテックドームに新しい強化ガラスがはめられていた。
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修理工としての腕前で知られるガガス(ドーラ)だが、 元は海で危険に身を置きながら働いていた男だ。 今のささやかだが安定した暮らしに、何か違和感を感じている。 かといって指名手配が解かれていない今、 公の職務に復帰する事もままならぬ。
人工環礁連合軍と、ギルド傘下の海賊が犇めき合っている世界。 治安の悪化による海運の衰退。 このままではいけない。 この状況を打開するには武力意外の何かの手が必要だ。
ドーラの脳裏に、あの見捨てられた海底鉄道が浮かんだ。
スクリューに代る効率的な推進システム(人口ヒレ)が普及して以来、 輸送量で劣る海底交通網は、しだいに閉鎖されていった。 しかしレールはまだ使える状態にあるはず。 破壊された無数の海上駅を復興して、人口環礁との間に定期便を設ければ… 一朝一夕にいかない大事業だが、まずは小さな一歩から。
ドーラは自分の小屋へ戻ると、早速計画書を書き始めた。
--- 1月後
『アルバトロス』と名付けられた巡視艇に一人乗り込むと、 ドーラは再び海上駅へ旅立った。 自分の小屋はそっくりモーズに譲った。
つづく
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