箱の日記
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灯台の光のすじに追われるように
夏は逃げていった
ひんやりとあきらめが降りてきて
ふたりは黙った
鯨くらい大きな船(それはじっさいのところ
鯨だったのかもしれない)が旋回しはじめると
まわりにさざ波が立って
じきに岸へと打ち寄せた
もう帰らないとね
そういうふうに波音がしつこく言うので
わたしたちは車に戻った
エンジンの音も
海岸道路から街へとつづくハイウェイのことも
距離をしめす標識の文字も
話をした内容も
覚えていないけれど
鯨の影はあたまの中でずっと旋回しつづけていた
ほんとうに船だったかよくわからないあれは
なにかとてもすごいものを
まちがった場所に運んできたにちがいなかった
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