箱の日記
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夢のあとに
チェロの弓をひいたとき 息を震わせるすさまじい魂が湧いてくるようだった 僕のどこにこんなものがあったんだろう 一曲弾き終えると しばらく手が震えて言葉も出なかった
君はなんでもない表情で 次の曲名をつげた 水を二口飲むとピアノがはじまる 後れをとらないように、 僕は
宇宙っていうのは 二つあって、僕らが観測できるのはその一方 もうひとつのはすぐそばにあるはずなのだけど 誰もそこへ立ち入ることはできない 意識することすらままならない それはこの世界に「僕が存在する」っていうことにほかならない たとえば ガラスに額をくっつけたとき あちら側に見える気がするもうひとり 彼が知っているかもしれない すごい魂の宿るところを
決して教えはしない
また一曲を終えて 窓にその姿を探すけれど 彼はいない かわりに、真っ暗な闇の中に浮かぶ街灯が 強風にうごめく楠木を照らしている 僕の弦がそうさせている
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