箱の日記
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グリーンウォーター
池にむかって靴を飛ばした 靴は、 かかとで一滑りしてからずぶと溺れた 狸が乗った泥船みたい スプーンのようにひらひら落ちると思ったけどそうじゃなかった
溺死するんじゃないかな
もうすぐ寒波がやってくるというのに ここは湧いたように生温かく 鯉が 底についた僕の靴の上を悠々と 通り過ぎていく つらいことや悲しいことがあったわけじゃない とくに悲観的ではないし将来のことを真剣に考えるほどの 不安もない ただ 誰かが僕の行動いっさいを観察して 実況してくれたらいいのに そして となりの解説者が 彼なりの分析をする 僕にそれは聞こえないのだけれど どうってことない グリーンウォーター いつからかそう呼んでいた 透明性のない澱み そこへ裸足をいれて ゆっくり波を立てた
「いま、おもむろに立ち上がりました、さあ」 僕は片っぽ裸足のまま ゆらゆら池のまわりを歩いた ポケットに手を入れたまま 素面で 実況がこれからの僕を待っている 解説がはやくも分析を始める 僕がどんな心境か 僕が何をみつけたのか
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