箱の日記
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落ちたばかりの林檎がひとつ。 落下するところを見ていたわけではないが、 それを囓るのはわたしだ。園主はどこかへ行ってしまったのだから。 つややかな赤を肩で磨き どうして落ちてしまったんだろう、いまごろに と、 林檎を点検する。 まだ虫にさえ見つかっていないその果実は、本来 地を這うものの取り分だ。 わたしは磨いた部分を囓り、 そのすっぱい匂いが、この園にいきわたる ほのかな湿気であることに気付く。 歯型を見ていたら、 地を這うように生きたいと思った。 そうして、誰にも文句を言わせないのだ。
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