箱の日記
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銀貨
フィクションだけど、 17世紀の太平洋の真ん中あたり、不完全ならせんを描きながら 一枚の銀貨がまっさかさまに海底へ落ちていく。 深みの水のなんと冷たいこと。そして真っ暗。きらきらと揺れていた銀貨は、 いまや石ころと同じ。きらりともせず、それ自身の重みでなんとか底までたどり着こうとする。 突然イカが現れる。帆船と同じくらいの大きさのやつ。それはもちろん 17世紀のイカで、目玉なんていらないからのっぺらぼうな顔をしている。体はとうめい だけれど光がないのだから誰もそのことを確かめることなんてできない。
そいつがそのイカがものすごい素早さのすき通った足で豆粒のように小さな 銀貨をとらえた。あたりには「しゅん」と金属的な音が響き渡る。 僕はやった、と思った。とっくにイカは銀貨を持ちどこか遠くへ消え去ったが、 透明な巨大イカの体の真ん中で、あれは輝くときを待ちながらくるくると回っているのだ。 フィクションだけど、これは本当のはなし。
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