箱の日記
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台風一過
きのうの台風で電話線が切れた。 もちろん、電線も。それから、国道へつながる小道のいくつかは なぎ倒された木々で通れない状況だ、たぶん。 つまり今日からしばらくは仕事がないってこと。 僕が仕事に出掛けられないせいで誰かが困ったとしても、 電話さえかかってこないのだ。これは神様の仕業。
庭ではなにもかもがひっくり返っている。植木鉢やバケツ、そして プラスチック製の滑り台まで。それらは眠ることができなかった夜じゅうの疲れを 朝陽の温度で癒しているかのよう。 僕はすっかり安心して、ソファに深く座った。これでテレビがついたのなら 言うことなしだと思った。いや、テレビさえつかないから安心なのかもしれない。 テーブルの上に先週の新聞が置かれていて、表紙の男がにやりとこちらを向いている。 とても親しげに。彼のことはよく知らないが、 ほんとうに親しい知り合いのような気がしてきた。ねえ、誰だっていいのさ。
本日、ほんとうにほんとうの「離れ小島」だと思ったが、 そこまでの実感はなかった。数時間前まで嵐だったのが嘘に思えるのと同じくらい ここが「離れ小島」であることが信じられなかった。まるで僕がつくったフィクションだ。それに、 鳴りだすはずのない電話のことも。 受話器をあげて、音がしないことを確かめたりする必要はないんだ。 僕が気に留めていなくてはならないことはただひとつ。 この家のどれくらいの部分を修理しなくてはならないか、ということ。
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