箱の日記
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2004年05月21日(金) 晩春(ゼロの暗闇)




ゼロの暗闇




その夜はコーヒーのような尿が出たんだ
闇にはペイズリーが貼りついて
それを浮き上がらせたのは
たまねぎの皮ほどの月
午前三時
街じゅう誰もが消えたみたいに
しんとして
わかっているのに
僕は怖くなってしまった

胸にカナブンがぶつかって
ぼとりと落ちた
なにかの部品みたいに
それを合図に夜が動き始めた
街に被せられた半球が
低音でうなりながらずれていく
夜の最終点
僕は
胸のあたりをさぐった

じっさい
夢の中にいたわけでもないし
酔っぱらってふらついていたのでもない
目を見開いて
細い闇を渡っていったんだ
ひっそりと
誰も起こさないように
踏み外さないように
腐敗した花びらのみちを
春の最後に
歩いたんだ
その下にぐるぐる巻きに折りたたまれて
横たわるもののことを
ひと足ごとにさぐりながら
ぐったり疲れた体で

ごうごうと動き始めた
ゼロの暗闇のなか






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