【別れ】 - 2012年08月14日(火) ありがとう 朝。 目覚ましを使って5時頃に起きてみるが、外は生憎の雨模様。 これではモーゼルを外に出してやれないな、と思いつつ二度寝。 次に目覚めたのは7時くらいだろうか。 モーゼルの反応は相変わらず薄い。 昨日、寝る前は静かに見えた息遣いも、また苦しそうなものに戻っていた。 手早く朝食を済ませて、付き添いを続ける。 しかし、今日は呼吸が苦しそうだ。 もはや水分を口に含ませても舌を動かす余力もない。 昨日見せた、起き上がろうという仕草など夢のまた夢。 弟と二人、声をかけたり、撫でてやったり、なにか出来る事はないかと 思うが、何も出来ない。 すると、モーゼルが嘔吐する。 家に戻ってきてから初めて。明らかに状態が悪化していると思わせる 行動だった。吐瀉物は赤黒い粘液状のもの。 腫瘍は複数の臓器を巻き込んでいたが、胃もやられていたのか。 苦痛に顔を歪めるモーゼルを優しく撫でてやって、吐瀉物を片づけ、 顔を丹念に拭きとる。 その後、下痢便と嘔吐を一度ずつ。 自分と弟はひたすら手早く、入念にモーゼルの体を綺麗にした。 少しでも不快感を残して欲しくない、その一心だった。 そんな時間がただただ過ぎてゆき、午前9時を過ぎた頃。 突然、モーゼルが大きくエビ反りのような状態になった。 あまりに突然の出来事に呆気に取られる自分に、弟が冷静に一言 「息、止まってる」 ハッとなって腹部に目をやると、それまで忙しなく動いていた腹と 呼吸音が消えていた。唐突な終焉。 すると、今度は全身から力が抜けていくように身体を丸めはじめた。 自分は懸命にモーゼルにしがみつきながら「ありがとうな」と念仏のように 繰り返すだけだった。 途中、3度か4度、痙攣と同時に息を吐きだす仕草をした後、モーゼルの 身体は動かなくなった。抱きしめ続けた彼の身体はまだ熱持っていたが、 完全に機能を停止し、力を失った身体は魂の抜け殻だった。 部屋を出て、姉と姪っ子達にモーゼルが今亡くなったことを伝える。 皆一様に悲しみの声を上げる。 上の姪っ子はハンカチで目を覆いながらモーゼルの体を擦る。 下の姪っ子はいたたまれなくなったのか、部屋を出ていった。 後で聞いた話では、今のソファに顔を突っ伏して泣いていたそうだ。 自分はといえば、嗚咽を上げるわけでもなく、涙が出続けていた。 止め方がよくわからないので、止まるまでそのままでいいと思った。 しかし、甲斐姫の時と大きく違うのは、モーゼルが苦しみから開放された、 という思いが自分の中にあったことだろう。 快復に向かっていた所で突然の敗血症によって命を絶たれた甲斐姫の時とは 思いが異なっていたのは確かだ。 それと、甲斐姫を亡くしたという経験自体もあったためだろう。 だからこそ耐えられた。甲斐姫の存在は今尚、自分を救ってくれたのだ。 なんとか昼頃には気分を持ち直して、前を向けるようになった。 こんな時、マイペースな弟の存在は助かる。 モーゼルの遺体を冷やす氷を買いに行こうとか、葬儀の申し込みを早く してしまおうとか、色々とはっぱを掛けてくれる。 自分もそうすることで、クヨクヨ考えることもなかった。 周りの人達が支えてくれるおかげで、大事な相棒を亡くした悲しみに 囚われることはなかった。 葬儀は明日に決まった。 まだまだ、やることはいっぱいある。 一つ一つ、乗り越えて、モーゼルを心安らかに送り出したい。 我が家にやってきて10年余り。 一つの役目を終え、彼は天に召された。 次に会うのは何年後になるか。 虹の橋で待っていてくれ。きっと、会いに行くから。 ...
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