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2011年11月08日(火)
18歳未満差別!? 同人イベントにおけるレーティング・ゾーニングを考える

・序
 twitterの方で流れてきた情報、「某イベントにおける一律年齢確認」から、衝撃のツイート「18歳未満差別じゃないか!」というやりとりを眺めた上で諸々思うところありまして、各問題及び、私の個人見解をまとめさせていただきました。
 私としては、「年齢確認は手段として好ましいものではない」が「仕方ない面もある」それよりも「頒布されている同人誌のR18指定が過剰になっていないか、そちらを見直すべき」という立場をとっております。
 以下、その理由を述べます。
 途中、気に障る表現があるかもしれませんが、まずは最後まで目を通してください。最後まで目を通した上で「異論がある」というのは構いません。中途半端に文章をつまみ食いして癇に障ったとこだけ異議申立て、というのはやめてくださいね。お願いします。

・R18(18禁)は「18歳未満差別」なのか?
 違います。
 いきなり結論で申し訳ないですが、「R18頒布物を18歳未満に渡してはならない」というのは、各自治体の条例に定められたルールであって、「『差別意識をもって』18歳未満に渡さない」わけではありません。
 具体的にはこういう例があります(京都府版)
 http://www.pref.kyoto.jp/seisho/resources/1300954947443.pdf

 ※何故京都府版を例に挙げるかというと、東京版は条文の判読が困難で、こちらの方が情報が整理されて見やすかったからです。各自治体毎に規定に差異のあることは、念頭に置いてください。
 この例に挙げた条例で重要なのは、条文内13条の2及び、第6章31条の4と6です。PDFファイルを直にあたっていただく方が好ましいのですが、時間の無い方の為に、ここに抜粋します。

****************以下抜粋*******************

第13条の2 知事は、図書類の内容の全部又は一部が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該図書類を青少年に有害な図書類として指定することができる。
(1) 著しく青少年の性的感情を刺激し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(2) 著しく青少年に粗暴性又は残虐性を生じさせ、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
(3) 著しく青少年の犯罪又は自殺を誘発し、又はこれを助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げるものは、青少年に有害な図書類とする。
(1) 書籍又は雑誌であつて、全裸、半裸若しくはこれらに近い状態での卑わいな姿態又は性交若しくはこれに類する性行為を被写体とした写真又は描写した絵で規則で定めるものを掲載するページ(表紙を含む。以下この号において同じ。)がその総ページの3分の1以上を占めるもの※京都府は包括指定であることに注意。都は個別指定です。
(2) 映像が記録された磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク又は光磁気ディスクであつて、全裸、半裸若しくはこれらに近い状態での卑わいな姿態若しくは性交若しくはこれに類する性行為の場面で規則で定めるものの描写の時間が合わせて3分を超えるもの又は映像が記録された磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク若しくは光磁気ディスクの製作若しくは販売を行う者で構成する団体で知事の指定するものが審査し、青少年の視聴を不適当としたもの
3 第1項の規定による指定は、告示により行う。
図書類取扱業者は、第1項の規定により指定された図書類又は第2項各号の規定に該当する図書類(以下「有害図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、貸し付け、閲覧させ、視聴させ、又は聴取させてはならない。
5 図書類取扱業者は、有害図書類を陳列するときは、規則で定める方法により当該有害図書類を他の図書類と区分し、店内の容易に監視することができる場所に置かなければならない。
6 知事は、前項の規定に違反して有害図書類が陳列されているときは、当該図書類取扱業者に対し、期限を定めて、当該有害図書類の陳列の方法又は場所について改善すべきことを勧告することができる。
7 知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その勧告に従うべきことを命じることができる。

参考:有害図書(R18及び、R18同等に扱うように指定された頒布物)はこのような扱いを受けます。
 http://www.pref.kyoto.jp/seisho/resources/1291195163631.pdf


続いて罰則規定
第31 条
3 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条の4の規定による命令に違反した者
4 次の各号のいずれかに該当する者は、20万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条の2第4項の規定に違反した者
(2) 第13条の2第7項の規定による命令に違反した者
(3) 第13条の3第2項の規定に違反した者
5 次の各号のいずれかに該当する者は、10万円以下の罰金に処する。
(1) 第13条の3第3項の規定に違反した者
6 第13条の2第4項、第13条の3第2項、第14条の2第2項、第18条の2第2項、第21条から第24条まで(第23条第2項の規定を除く。)又は第24条の4の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、前各項(第3項第1号、第2号及び第4号、第4項第2号、第5号、第6号及び第10号並びに前項を除く。)の処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。

*****************ココマデ******************

(可能な方は、PDF本体を参照してください)

 要するにR18頒布物を18歳未満に頒布すると条例で罰せられます。
 「R18を18歳未満にも頒布しろ」という要求は、「18歳未満の欲求を満たす為に、R18製作者・頒布者は処罰覚悟で条例に違背しろ!」と要求しているのも同然です。
 製作者・頒布者にしたら処罰されたくないに決まっています。「罰せられたくない」「罰金なんか払いたくない」「前科者になりたくない」と思うことが『差別』ですか? 私は、それは『差別』ではないと考えます。だって、他人の為に「前科者になれ」と要求されることの方がひどいじゃないですか。

・一律年齢確認の問題点
 私の聞き及んだところでは、一律年齢確認を言い出したイベントにおいては、参加者全員にタグ(年齢確認の為のリストバンド)を付けるよう要求したとのことです。この要求に対する不快感は理解できます。
 タグというものは、対象を効率的に分類する為につけるものですね。それぞれが単純な物体ではない人間を「効率的に分類」しようという試みは、なんだか「人間性の否定」みたいな感触がありますよね。付けられる側としたら「自分の人格を否定された」ような不快感。
 今回の、一律年齢確認に対する強い反発は、この不快感を源としたものだと推測します。そりゃ気分悪いです。
 ただし、「人間を効率的に分類する試み」が赦されるケースというものも、世の中にはあります。
 例えば、最近、病院では入院患者にバーコード付きのリストバンドを付けさせるんですよ。何故かって「投薬ミスがあってはならない」から、予防措置として、対象を誤らないようにデジタルデータで管理するようにしてるんです。
 同人誌即売会におけるタグ付けは「18歳未満にR18が頒布されることがあってはならない」と、ある意味、イベント側のそれだけ切羽詰まった危機感の顕れとも見ることができます。
 「当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない」とはあるものの、何を以って「過失がない」とみなすかが定かではないですものね。処罰されたくない側としては保険をいくらかけても足りない心理状態なわけです。
 不快な方法であることは確かですので、「より不快でない方法は検討できなかったのか」という議論の余地はあるかと思います。ただし、この方法が「絶対的」に「不当」であったり「悪」であるわけではないと、私は考えます。議論は大いに行われれば結構ですが、一方的な(イベント主催に対する)糾弾ではなく、ベターな方法を模索するものであって欲しいと望みます。

・同人誌におけるレーティング・ゾーニングの現状
 実は、私としては、イベント主催の年齢確認要求(イベント側の萎縮)よりも、こちらの方が更に深刻な萎縮状態にあると認識しています。
 私の青春時代―――というと二十年くらい前なのですが―――には、R18マークを付けて頒布されている本というのは、本当に、どの頁を開けても交接シーンが入っているような、まあ分かりやすく一言でいうと「おかず」になるような本に限定されていたのです。現在はどうですか?
 「これからそういうことをやりますよ」と仄めかして暗転(或いは数コマ空け)事後、というような描写のものでもR18マークを付けて頒布されてませんか?
 私はお訊きしたい。この程度の表現は商業誌でも全年齢で販売されています。同人誌だからと言って、これが「より有害」で「青少年の健全な育成を阻害する」と、ご自身で思われているんですか?
 私はむしろ、同人誌即売会場にまで自力で来る能力のある青少年がそんなヤワなはずはない、この自主レーティングは青少年の成長度合いをナメていると感じています。
 或いは、起きるかどうかも定かではない、青少年の保護者との確執を過剰に恐れているのではないかと勘繰っています。
 更に、この過剰な自主レーティング・ゾーニングが別の、より深刻な問題を引き起こすのではないかと懸念もしています。

・自主R18の落とし穴!?
 条例におけるR18含む有害図書については、先に述べていますが、皆さん、製作して頒布する皆さんも「R18」の意味をちゃんと把握していますか?
 「R18」のマークを付けたら、それはもう頒布の仕方に制限をかけなければならないものになる、という意味ですよ、理解していますか?
 「R18」は「18歳未満を追い払う呪文」ではなく、「18歳未満の手に渡ったら、製作・頒布者側が処罰される」という意味ですよ。解っていますか?
 同人誌の流通というのはカオスなところがありまして、どういう経路でR18同人誌が18歳未満の手に渡るか分からない、と、私は懸念します。
 そして「R18」と表紙に印刷されているからには、中身が「商業誌基準ではR18に相当しないくらい刺激の薄いもの」であっても、罰則から逃れられないのではないかと強く懸念します。
 R18のマークを付けていなければ、「個人的な揉め事にはなるかもしれない、けどそのレベルで済むかもしれない」ものが、R18の文字を入れたばかりに条例における処罰対象になり得るかもしれない。これは杞憂でしょうか?
 私は、同人誌が松文館事件のような無茶な法廷に引っ張り出されて欲しくありません。だからこそ、余計に懸念するのです。
 また、みなさんに考えていただきたいのは、今なお続く「有害図書排斥運動」です。かつては「おかず」レベルくらいにしか付かなかったR18を、この有害図書排斥運動はさらに多くの更に幅広くの、自分達の潔癖な気持ちの満足のいく(いつ満足するのかな)領域まで貪欲に広げようとしています。自ら「商業誌ではR18に指定するには及ばない」頒布物にR18のマークを押すのは、この「有害図書排斥運動」の片棒を担うことになっているのではないでしょうか?
 いつか、「自費出版である同人誌ですらこれほど厳しいレーティングを行なっているのに、商業誌のレーティングは緩すぎる」と、同人誌レーティングを『実績』として踏み台として、商業誌に圧力がかけられる日が来ないとも限らないのです。
 過剰な自主規制は私達自身の首を絞めかねません。「流行りだから」「そういう空気になってるから」と言って、安易に「R18」の指定を入れると、却って危険な事態を招くんじゃないでしょうか。
 よく考えてください。自分の作ってる、頒布してる本が本当にR18相当のものなのか、慎重に考えてください。

・何をR18とすべき? また、すべきでない?
 有害図書を個別指定している自治体では、実は「何を以って有害とみなすか」の基準が明確ではありません。心許ないですが商業表現媒体を目安とするしかないでしょう。
 一方で、今回例に挙げた包括指定の自治体においては、性描写が規定の割合を満たさないものは有害図書にはなりません(現時点)。
 ただし、局部を描いて修正を入れたもの(逆に言えば修正無しではイベントでの頒布が許されないもの)は、割合如何にかかわらずR18にしてください。なお、局部を描いて修正を入れないものは「猥褻物」となりますので、レーティングとは関係無く違法となります。

・18歳未満はどう振舞ったらよい?
 とりあえず「18歳未満差別」という発言は取り下げていただきたいな、と、個人的感慨として思います。
 この言葉は、どういう心情によって発せられたにせよ、言葉面だけを見ると「18歳未満だけど18禁見たい!」と要求してるように見えるんです。「そういうつもりじゃない!」って、言われるかもしれませんね。ま、そういうつもりでは無かったんだろうな、と今は私も解釈してるのですが、この言葉を最初に見た瞬間には「なんて我侭な!」「自分さえ良ければ他人が前科者になってもいいというのか!」と、思っちゃいました。
 そういう風に見られるとどうなるか。「18歳未満はやはり感情的に幼い」「未熟だ」「より強固に保護しなければならない」という風に逆効果になる恐れの方が強いんです。
 むしろ、こう訊いてください。「それ、本当に18歳未満に見せられないような『ひどい』内容のものなんですか?」
 意図して「おかず」を描いている人でなければ、こんなことを言われて「はいそうです」とは、答え…られないんじゃないかなぁ?
 また、製作者・頒布者が何を恐れているか理解してください。行政も怖いけれども、第一に怖いのは、保護者からのクレームなのです。同人誌を手にする時には、その本の作者・頒布者を、自分が守る堤防になる覚悟を決めてください。もし同人誌が好きなのなら、愛があるなら、だからこそ自分のものにしたいのだと言うのなら、愛している対象を守ってください。それが…陳腐な言葉になりますけど、「愛の背負う責任」というものではないでしょうか。


・後記―――読み飛ばしてくださって結構です
 なんだか固いことをいっぱい書いてしまいましたが、実のところ、私個人の価値観においては若い子がエッチなものを見たからといって、別に大して害にもならないだろう、と認識しています。薄い本ごときに、そんな誰かの人生を破綻させるような力なんて無いと思っています。薄い本でなくても普通の本でもね。フィクションは所詮フィクションです。
 人間の人生を左右するのは、圧倒的に、周囲を取り巻く人達であり、環境であり、直に交わす会話であり、行為であると考えます。
 刺激的なフィクションに触れた人は刺激に触発されて何か「普通じゃない行動」をしてしまうか? 刺激を受けた瞬間には、そりゃアドレナリンとか出て興奮状態になりますよ、一時的にはね? でも実際の行動をどうするか、は、その人がそれまでに経験してきた事柄や教育や、また持って生まれた資質によって決定されるんです。答えは「人によるんじゃない?」しかありません。万人に絶対的に有害なフィクションなんかありません
 にもかかわらず、ここまで綴ってきたような「お固い」ことを言うのは、私が一方では「既存のルールには従う」スタンスの人間だからです。
 何故、ルールに従うか? ルールに違反するとリスクを背負うことになるからです
 私は出来る限り、無用なリスクは背負いたくありません。他人にもリスクを背負うことを推奨しません。自分が好ましく思っている対象がリスクを背負わされる様は見たくありません。
 だから「ルールは守りましょう」と言うのです。
 一方で、表現規制反対の立場でもあるのですが、これは「過剰なルール拡大は、ルールを守ることを困難にする」からです。守ることが困難になるようなルールは設定しないでください、と、そうお願いする立場です。「ルール」には、あくまで「容易に守れるルール」であって欲しいのです。
 都条例は(悔しいことに)既に設定されてしまったので、表現する者、頒布する者は向こうの顔色を伺いながら出したり引っ込めたりしなきゃなりません。本当に無念です。でも、相手が要求する以上にこちらが引き下がる必要は無いと思うんですよ。むしろ引き下がりすぎると攻め込まれるかもしれない、やばい、と思っています。
 とはいえ、同人というのは個人活動なので、駆け引きの見極めが困難なのがつらいところですね。他力本願はなんですが、どなたか、この駆け引きを優位に運ぶ為の情報共有の場や、相談窓口を作ってくれないかしら、なんて思ってしまいます。私は…この記事を書き上げるだけで息も絶え絶えなんで…、ほんとは、自分では書きたくなかったんですよ。だって、ほら、リスク背負うのは嫌なたちでしょ。チキンなんです。それでも、同人は私にとって守りたい大切なものの一つですし、見渡したところ、問題を整理して提示してくださってる方が、私の視野にはいらっしゃらなかったので、清水の舞台から飛び降りる気持ちで一石を投じてみました。
 どの方面からもフルボッコくらうんじゃないかと戦々恐々ですが、文責として、異論・反論も承ります。
 ただし、私はイベントの運営にも、PTAにも、ましてや行政になど影響を与えられない小市民ですので、「ご意見を承る」以上のことはできません。ご了承くださいませ。
 …何の反応も無いくらい、誰にも届かなかったら…それはそれで、血涙ですね…ふふふ…TT
 ここまで、長々とお付き合いありがとうございました。読んでくださった方には心より御礼申し上げます。