17歳位の頃からの友人とお茶を飲んできた。 彼はその頃、進学で有名な男子校に中学から通う高校2年生だった。 当時どこもそうであったように学園紛争の盛んな学校でもあった。 彼らの仲間は、制服は誇らしげに着ていはするものの、 髪を伸ばしたり頼りのない髭を蓄えたり、タバコを吹かしては 何をそんなに話すことがあるのかと思うほど 口角泡ふかし議論に明け暮れる生徒たちだった。 父上の影響か美術にもことのほか関心があって デッサンをしに美術研究所にも通ったりしていた。 彼の仲間には曼陀羅を泥絵のように描く人や、繊細に細密画を志す人、 お金がないので板に描く人などがいて、 それぞれ個性豊かな若者たちが思い思いに生きていた。 でも、不思議なことに今の今まで彼の描いた絵というのを見たことがない、 または見たことがあるのかも知れないけれど、記憶がない。 通っていた美術研究所を出て坂を降りてゆくと、 もう一つの坂が下った合流点に『モンド』という喫茶店があって わたしたち3、4人のグループは時折そこでお茶を飲んだり、 パフェを食べたりした。 そんなことを思い出しながらとりとめのない話をしていた。 5年前も同じように話をしていたし、10年前も同じように話をしていた。 そして、15年前も20年前も25年前も、 30年前も・・・同じようにお茶を飲んでいたものだなあと まわりの風景や自分の姿が変わってしまっても、 変わることのない二人の距離と、吸っている時代の空気を思っていた。 お茶を飲んだ場所は、もう今は跡形もなくなってしまった馴染みだった 喫茶店の近くにできた、味気のないチェーン店であった。 もう、そういうものしか残されていなくて あの大人げな喧噪は願うべくもないな、 と小さな傷に知らぬ振りをするように わたしたちはとりとめのない話を続けていた。
|
リンク、引用の際は
マイエンピツに追加 |