カンラン
←過未→


2002年10月05日(土) 陽の早く昇る場所 2





東京2日目の朝。

目が覚めると

友達がTV観ながら昨夜帰りがけに買ったヨーグルトを食べていた。

のびをしてから布団を抜け出し,その傍らに滑り込むようにして並んで朝食をとる。

こういうのって久しぶりだ。

卒業してからも広島で友達を作ったけど,

やっぱり何かが違うんだ。

彼女とはほんの数か月ではあるけれど,同じ部屋で暮らしていたことがある。

だからかな。

それから長い年月を経ていても,ある程度の互いの癖なんかはいまだに覚えてる感じだ。





ほんとはディズニーシーに行ってみようとしていた問題の日。

結局,却下した。

休日,人ごみ,理由はいろいろあるけれど,

何かに二人して集中するよりも,もっとゆるぅい空気の中にいたかったのが一番おっきい。

そんなわけでやはりこの日もぶらぶらした。

歩いては電車に乗り,また歩きつかれたらカフェに入り,

また歩いては電車に乗る・・・。

一体いくつの街並みを歩いただろう。





広島で街と言えば,ただひとつ。

けれどここでは電車を降りるたびごとに街が広がる。

それだけたくさんの人が生活しているということだ。

「街で会おう。」っていうお決まりの文句がここでは通用しない。

もっと言うなら,たとえば「渋谷で。」っていうことばだって通用しなさそうだ。

だって街はおっきい。

そして駅ひとつとってもとても広い。

あぁ,東京。

なんて複雑なんだろう。





手綱をひかれるようにして歩いた街。

友達に見捨てられたら泣いてしまうかも知れない,と

そんな切なくさびしく心細い気持ちと

知らない間にかきたてられるわくわくする気持ちとが常に背中合わせになった街。





この日の昼食は,下北沢という場所でカレーを食べた。

きのこがたくさん入った,「食べる」という表現がしっくりくるルゥ。

お店に入るときに軒先に置いてあったミルクとキャット・フードは,

帰り際にはすっかり空になっていた。





一度部屋に帰ってから,すっかり暗くなった道路でタクシーを拾う。

東京の深い深い深緑に飲み込まれたようにして,

車は一路東京タワーへと向かう。

さっき出歩いてたときにはうすらぼんやりしていた東京タワーが

今はピンクにライト・アップされてはっきりくっきり東京の街に突き刺さっている。

(のちに友達から貰ったメールで,この日のライティングが特別にピンクだったことを知る。

 なんでも乳がん早期発見キャンペーンだったとか・・・。)

道端にはタワーを見上げる人々がところどころで見受けられ,

知らない人たちどうしでタワーを取り囲んでいるようだ。





そうそう。

東京の街で見かける街路樹を囲む柵は,人が座ることを想定してつくられているようだ。

それだけ東京の街は広く,人はたくさんの距離を歩くんだ,きっと。

広島でいう,ガード・レールだなんて呼び名がふさわしくない優しくきれいなつくりだ。





ピンクのタワーから見下ろしたのはTV画面でよく見る東京の街だった。

普段その中で暮らしている友達や,まわりのカップルは,

その眺めを相当楽しんでいたようだけれど,

私はというと,どういうわけか

見下ろす夜景よりもむしろ下から見上げるタワー自体が魅力的に思えた。

もちろん,自分の住む街じゃないからかも知れないけれど,

本来の姿を闇に包み隠され,小さな光の集合体となった無数の人工物よりも,

たったひとつの大きな建造物の方に潔さを感じたんだ。

すごい人がいる。

すごい歴史がある。

そんな風に。





そこから電車とタクシーを乗り継いで,おすすめのもんじゃ屋さんに向かう。

片付けるか片付けまいか悩んだ挙句にそのままになってる扇風機の前,

席が空くのをおもてで椅子に腰掛けて待っていると,

お店の人が一杯お酒をご馳走してくれた。

外で気持ちよく飲むお酒はいつぶりだっけか。

ほんの数歩先を勢いよく流れる車の川も,今夜はそんなに鬱陶しくはない。

旅をしているせいだろうか。

お酒を飲んでるからだろうか。

それとも私も深緑にいっしょくたに飲み込まれてるからだろうか。





東京の坂と階段の多さにやられた足がずしんと重たいようでいて,

どうしてなかなか気持ちいい。







BROOCH |chut! mail マイエンピツに仲間入り