|
|
■■■
■■
■ 【書簡】(白珠番外編・途中まで)
フェデリア騎士隊 クリス=スタイン殿
長く連絡をしなくてすみません。お元気で、いらっしゃいますか。 もっと早くに、便りを出したかったのですが。ひとつところに落ち着いてからと思っていたら、気がついたらずいぶんと不義理をしてしまいました。 この手紙を受け取る貴方の、怒った顔が目に浮かぶようです。……こんなことを書いたら、さらに怒らせてしまうでしょうけれど。
あちこちを歩いてみましたが、しばらくはイレンに落ち着くことにしました。ここまで来れば、私の顔を知っているかたもいないでしょうし。こちらでは私のような髪や瞳の色も、さほどは目立たないようです。よく貴方が言っていたように、私の父か母か、祖父母あたりが、こちらのほうの出身かもしれませんね。 でも、やはりこれだけ伸ばしている髪は珍しいらしくて。 貴方に褒めていただいた髪ですから惜しくはありましたが、切ってしまいました。……怒らないでくださいね? 貴方だって、騎士になりたてのころに一度ばっさり切っているでしょう。憶えていますよ。
働くところも見つけました。給仕をしています。巫女殿にいるあいだに、茶の種類や淹れかたにすっかり詳しくなってしまって、それが役に立っているようです。女官たちがつくってくれたお菓子もね。貴方は甘すぎるものはお好きではなかったけれど、甘い香りのお菓子を運んでいると、なんだかすこし懐かしくなることもあります。 暇があったら、こんど林檎のパイのつくり方を習ってみようかな。 次にお会いするまでには腕を磨いておきますので、作ってさしあげたら、食べていただけますか?
すこし迷っているのは、剣の訓練です。 国境警備隊で、余暇を使って市民に手ほどきをしてくれているようなのですが。(どうやら、警備隊の皆さんは少しばかりお暇のようです。平和で良いと言うべきでしょうね)いちど覗いてみたのですが、すこし物足りないような気がしました。 クリスと比べては、どんな師だって見劣りがするでしょうから、仕方ないのかもしれませんが。 街には私塾もいくつかあるようですし、いくつか訪ねてみようかと思います。 お墨付きはいただきましたが、入隊試験に挑めるのはもう少し先のことでしょうから、なまらないようにきちんと訓練しておかなくてはね。
――レイシャの花は、王都ではもう散ってしまったでしょうか。こちらはいま、盛りです。
できるだけ早く、貴方のもとに戻ります。 またお逢いする日まで、どうかつつがなく。
緑の月 649年 イレンにて
愛を込めて エアリアス
2003年06月24日(火)
|
|
|