研ぎ澄ましていた感覚を、一瞬で目覚めさせる音楽がある
脳に入れば、直ぐにかき回されてしまって、脳汁が瞳からあふれ出てくる
研ぎ澄まされていた感覚を、猛獣をしつけるように馴致させてきた
何重もの鎖や拘束具で抑えつけ、硬質の膜で覆ってきた
けれど、久遠寺の山頂、思親閣にかかる雲海で吹き飛んでしまった
日常生活を過ごす街が、雲上から見下ろすような感覚でしか見れなくなった
あなたを、仕事や家族や地域社会や政治や文化などでしか見なかったのに、
あなたを、魂の清浄さでしか見なくなってしまう
深山の意味が解体し、ただの木の集まりになってしまう
私はもう、日常世界に戻れないのだろうかと、富士に降りてきて感じた
感じたのだから、もう大丈夫だ、と次に思った
私は20代の研ぎ澄まされた感覚を猛獣を飼いならすように馴致してきたのだ
作業は困難だろうが、先は観えている
そうだ、時々こうやって、猛獣を解き放てばいい
「決して自分の中の矛盾を解消しようと、己の一部でも否定しない」と決めた
その決定に己の信念とし、私の出発点としたのだった
だから、時々こうやって、猛獣を解き放てばいい
この猛獣は、決して年老いることはないのだし