輝きが、漆黒の根底から白馬のたてがみのように優雅に揺れながら流れてきた。
流れ出した奔馬のように、見ると見る間に嘶きを残して過ぎ去っていった。
そそり立つような山林に、間接的に照らし出され幽かになびいたコバルトグリーンに、甘い十五夜を吸い取ったような平面上のような繊月に、残影が浮かび上がった。
長袖の厚手へと浸透する深い森の冷気が細面な眼鏡の形状を肉体から分離した。
白い輝きのように、あの人の許へと飛び出していけたのなら。
質量という物理が、染色体の知識が、人間の定義という余分さが夢想を打ち砕きまくる。
輝きを認識する根底が知識だ、夢想が裏切られる心底も知識だ、と反対意見すら、まくし立てる。
ペダルは流れているのに、左右の足首は開いて連動しなくなった。
ぽっかりと空いた体に残ったのは、あの人へ髪の毛だけになってしまった。
嘶きの驚きによって消化吸収されず、内臓の空洞によって腐乱せず、
形見として切り取られてきたそれを、両手で握りなおして大きく開けた口へ飲み込んだ。
情動を誘う残香と、透明を感じる無味だった。
とても長くて長くて、口元の手を漆黒の天へと向かわせると、
グィとお尻へ排泄された黒髪が引き戻されてしまった。
「奔馬(ほんば):勢いよく走る馬。あばれ馬」
「嘶(いなな)き:馬が声高く鳴くさま」
「幽(かす)か:ぼんやりの意味」
「繊月(せんつき):造語。新月に近い細い月の意味」
「長袖(ながそで):洋服で手首までの長さの袖。」
執筆者:藤崎 道雪 (校正H16.11.24)