彼女にあったのは、コンパだった。
コンパなんて正確には言えないような飲み会だった。
久しぶりの再会だからと会いに行ったら、待ち時間にナンパしていていやがった2人の中の1人。
「全くこいつは大学時代からだよ。女で左遷させられたのに」
と一瞬思ったけれど、友人Kあっけらかんと言い放った。
「お〜久しぶり。やっぱり華がないとないとなぁ〜」
と語尾を上げていたし、いっものアクセントだったし。
2人は高校時代の友人らしくそんな話をテーブルに蝋燭を照らすようなお洒落系の店でざわついていた。
友人Eはいつもの明るい調子で話を聞かずに、話題を共有していた。
俺はニコニコとして、ひたすら料理を食べR子を眺めていた。
「ああ、やっぱり似ているなぁ」と。
R子が似ていたのは大学時代に付き合っていたE子とS美だった。
E子は情熱的で性にはおおらかな感じ、S美は芯の強い女性の美しさを持っていた。
二の腕から手首のラインはE子に、指の関節と美しいラインはS美に。
腕の毛深さもS美で二重の零(こぼ)れ落ちそうな二重はE子だ。
髪質はS美なのに、肩越しのバサバサな感じになっていた。
お決まりのホテルのショットバーというコースへエレベーターを上がる時、R子を強引に友人から引いた。
まあ、2人の趣味はかち合わないから同じ会社でも険悪にならなかったのだけれど。
スプモーニを彼女に代わって注文した後に、「子持ちのバツイチなの」って言ってきた。
あ〜これでまた旦那の悪口かよ、って思ってうんざりした。
案の定だ。
俺は話題が下手だし気分の傾きが相手に伝わってしまう。
あいつは気に入っていなくてもエレベーターを2人で昇っていくだろうし。
椅子をR子へ向けて横並びだった視線を向かい合わせるようにした。
「どうしたの?いきなり」
という質問には答えないで、話題を乗せていた。
「とても魅力的な目だからもっと見たいんだ。いいだろう?」
「ぷ・・・なんてこというの? 可笑しな人ね。よく言われるけどね(笑)」
「もっとゆっくり見たいんだけど、部屋でもっともっとじっくりね」
もう、E子でもS美でもR子でも、だれでも良かった。
もう、欲望に身を引き裂かれるのは、どうでも良くなかった。
「くだらない。なんてことをしているんだ」と一方で感じながら、「思い出にひたってるだけだろ」と聞こえてきた。
「どうでもいいのだから。どうでも良くないのだから」という声を強めた。
1つ1つ壊して大人になっていくという方法しか、俺にはなかったみたいだ。
自分に正直にあろうとして、自分の気持ちと倫理観に忠実であろうとして、
自分の記憶が宝物だと勘違いしたのだから。
執筆者:藤崎 道雪 (校正H15.9.20 )