2006年09月08日(金) |
よしもとばなな『デッドエンドの思い出』 |
なんだろうか、よくわからないんだけど、タイミング悪く読んでしまった。
すっと話に入り込めなかったり、読んでいて物語と自分の間にベニヤ板みたいなものが挟まっているみたいな感じがするのは、この作品の責任ではなく、自分のコンディションの西南だろうと思いました。
読んでいて、やるせなかったんだよ。
分別のある。穏やかな短編の数々。 男と女の間に訪れる、切なく哀しい瞬間さえも、抗わず、穏やかな運命の流れの中に委ねていくのです。
「朝起きたら目がはれていて、どこで起きたのかわからなくて、そしてそのあと「あーあ」と思った。 飴玉のように思い出を何回も味わって何とかしてきた日々が、全部終わっちゃったよ、と思ったのだ。 いつだって朝起きると「高梨君は今日は何してるかな」と思うことに慣れていた。でももうそう思う必要は一生なくなっていた。私と関係ない人生の人になってしまったからだ。 困ったな、どうしたものかしらと私はビジネスホテルの真っ白い天井を見上げては考えた。」 『デッドエンドの思い出』
「その時、ふたりの間にはもちろん性欲なんてかけらもなかった。 光がふりそそぐその窓際の席で、紅茶を飲みながら、何かぽわんとした、暖かい黄色い光が二人を包んでいた。そして、これこそが欲しかったもので、乾いている心に「これだ、これが足りなかったんだ」と思わせる光だった。 祝福という言葉がその感じに一番似ていたかもしれない。 ずっと、いろいろなものを探していたけれど、それはこれだったのか、という感じだった。
私たちは当時若かったのでセックスでつながっているのかと思っていたが、そんなことではなく、ただこうしてなんとなく話をしているだけで、おなかの底からいいようのない活気が湧いてきて、ああ、これだ、これでいいんだと思えてきた。
それは次第に確信に変わって、ふたりはただにこにこしているだけで、満足していた。この時間は永遠に続くのだ、と私たちは思っていた。これだったんだ、何かが欠けていたと思っていたし、何かを失くした感じがずっとずっとしていた。 それは心のどこかで知っている何かだったけれど、まさかこれだとは思わなかった、ずっと淋しかったが、それはこれがなかったからだったんだ。あまりにも淋しくて、そう思うことさえできなかった、そういうふうに私の魂が言っていた。
内側の光と、外のきれいで透明な光と、二人の間にともっている光がすべて一つになって、未来を照らしていた。」 『幽霊の家』
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