2006年02月17日(金) |
石田衣良『スローグッバイ』 |
「誰とも会わずに終わった日曜日の夜は、ひどく静かで淋しかった。人類滅亡のあとに生き残ったひとりぼっちの人間になった気がする。黒須瑞樹は電子レンジであたためたタイ風チキンソテーとチャーハンのの残りを、キッチンのゴミ袋に落とした。甘くて酸っぱいだけで、どこがタイ風なのかわからない味だった。おまけにチャーハンにはパイナップルとレーズンが入っている。便利なのは一枚のトレーでたべられるのと、ピッチャーゴロをとったピッチャーが一塁手にトスするように、手首の一ひねりで簡単に片づけられるところだけだった。。スリーアウト、チェンジ。あとは何も残らない。瑞樹の休日を締めくくるにふさわしい食事だ。カロリーはあるのだろうが滋養はなく、味はするようだが香りはしない。自分の生活と同じだった。生きているけど、ほんとうは生きていない。」
上手ですねー。 共感しちゃいます。
軽く読めて楽しいハッピーエンドの恋愛小説短編集です。 休日のお風呂で読むのにうってつけ。 筆者は控えめに書いているけれど、きっととてももてる人だろうし、都会の恋愛事情に精通した人なんだろうなあというのが感じられました。 なので、この短編の数々は、自分の味わうことのないちょっとしたファンタジックな夢物語として面白い。 そして、冒頭のような共感を呼ぶ描写がはさまれているから私の現実ともまったく乖離するということもなく、いい距離感です。
一番気に入ったのは「フリフリ」 「前回までの見あいはことごとく失敗に終わっている。こちらに女の子とつきあう気がないのだからしかたなかった。だいたい今の世のなか、ロマンチックな恋愛や偶然の出会い、ついでに性的なパートナーシップなんかが、あまりにも過大評価されすぎている。いつでも誰かとつきあって恋をしていなければ、男性(女性)失格だなんて思いこみは、生き方を狭くするだけではないだろうか。」
という男性が、友だちに付き合いで紹介された女性と、これ以上紹介されないために付き合う「フリ」を始めるのですが・・・。 好きになるまでの過程が自然でいいなあと思いました。
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