感想メモ

2005年02月18日(金) 暗闇でささやく声  ジョイ・フィールディング


ジョイ・フィールディング 吉田利子訳 文春文庫 (2002)2003

STORY:
前の借家人にお金を未納で逃げられたテリーは、アリソンと名乗る無邪気な女性に家を貸すことになる。しかし、彼女が現れたときから不審なことが起こり始め・・・。

感想(ネタバレあり):
 久しぶりのジョイ・フィールディングの本。これまでに3冊読んだが、どれも面白かった。今回の作品もかなり面白く夢中で読んでしまった。

 主人公は40歳にして独身のテリー。テリーの一人称で書かれるため、テリーの心境に合わせて読んでいくが、途中からちょっと驚くことが起こる。とにかく最初は不審なことの連続に、一体誰が何の目的で?と懐疑的に読み進めるのだが、それが終盤一気に変化する。そして、一体何が正しく本当のことだったかがよくわからなくなるのである。

 主人公のテリーは元々厳格な母に育てられ、いつもけなされ、ちょっとした暴力めいたものも受けていた。つまりは虐待を受け続けていた。母は自分も親から同じようにされたので、テリーを愛しているけれどどうしてもそういうことをしてしまうのだと言う。母の最期は寝たきり状態で、看護婦のテリーが母の介護を続けていた。そのためテリーは結婚願望がなかったわけではないが気づけば40歳未婚なのだ。

 適齢期を過ぎて一人で暮らすというさびしさ、そしてあきらめみたいなものを持つテリーの心情は痛いほどよくわかる。そして、入院患者の息子で妻に逃げられ2人の子供を育てているジョシュに恋心を描く。それが無惨に打ち砕かれたときにテリーはそれまでにも行ってきただろう凶行に走る。

 30歳を過ぎて結婚しないで独身のままだとオニババのようになる・・・という『オニババ化する女たち』という本があったが、それを地で行くような作品だ。もちろんこんな風になる人ばかりじゃないと思うのだが、精神の安定が失われてしまうのは、多分テリーが弱くて孤独な一人の女性だからだと思う。強い女性ならいいけれど、普通の女性ならやっぱり誰かと一緒に暮らして安定した生活を望むものなのだと思う。

 もうこの年だから・・・という戸惑い、でも、それでも幸せはつかめるかもという希望。その希望が打ち砕かれたときの悲しみと絶望・・・。そういったものを繰り返していくうちに心のバランスが崩れてしまったのだろうか。

 テリーだけでなく、アリソンもまた同様に親からの愛情を受けずにつらい境遇で育った。お互いに愛されたいという気持ちを持っていただけに、結末がかなり悲しいものに感じられる。どうにか別の道があったのではないかと思わざるを得ない。私が作者なら違う結末を用意したかも・・・。

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