二十歳でしたから三十五年前ですかね。 今でもよく覚えておりますが、先生は 「君が考えていることを全部言ってみなさい」と言いますので、 私は日ごろ思っていることをズラズラと言ったわけです。 薄暗い応接間で一時間ぐらい。 大森先生はいつまでもずっと聞くんです。 私は先生が「君、法学部に行ったほうがいいよ」と言ったら、 それであきらめがつくと思ったんです。ところが、 「あなたは哲学病です、だから来なさい」と言われたんです。 哲学は病気であることだけが必要です、 というのが先生の哲学観なんですね。 あそこは正式には科学史科学科哲学分科という名で、 「科学史をする人は勉強しなくちゃいけません、 科学哲学は病気であればいいです」と言われました。
★たまたま地上に僕は生まれた/中島義道★
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