先日神戸で事件を起こした酒鬼薔薇とかいう少年は、 緻密な思考力を持っています。 彼がもう少し耐えて、五年ぐらい勉強を続けて、 ニーチェとかカントとか、ヴィトゲンシュタインに出会っていれば、 もしかしたら自分のものを発見するかもしれないと思いました。 これは、ロマンチックな、あるいはセンチメンタルな思いではなくて、 哲学者というのは、とくに一流であればあるほど犯罪者と似ている神経を 持っています。 ただし、犯罪者ほど多分、すなおでも純真でもない。 観念に逃げる道を知っているだけ、ずるいわけですね。 精神障害者も純真であって、まっとうな人間でしょう。 しかし、死を見つめたり、世の中の理不尽なことを見つめても、 狂気にならないだけの健康さを持っている人が今、 大学にたくさんいて哲学をしているわけですね。 すべての不条理を真正面から見すえる。 明日死ぬかもしれないという不条理ばかりか、 生まれてきた不条理もあると思うんですが、 そういうことを真剣に取り上げて、情緒的ではなく、 精密に論理的に語る。こういう訓練が必要だと思います。
★たまたま地上に僕は生まれた/中島義道★
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