(私小説ということで他の作家と比較すると?と聞かれて)
小林 それは島尾敏雄でもなければ、 上林暁でも、尾崎一雄でもないですからね、 正宗さんの私というのは。
あの人にとって自然主義とは、 現実は九尾の狐だということさ。 たとえばリルケが言っているようにね、 神様というものを見るのにね、 ぼくら人生を写さなければならないだろう。 そういうときには、ぼくらの写真機というのは ネガだというのだな。 ネガなんだよ。神様というのはポジなんだよ。 ところが、ネガがなければポジがないのだよ。 ピッタリネガに合うポジなんだ。 そういうこと手紙の中に書いている。 同じ気味合いのものが、 正宗さんの思想にあるかもしれない。
聖書というのがあるのだよ。 聖書という一つの観念があってね、 1日黙々とネガを撮って歩いて、 寝る前に聖書を読むのだから 着物の柄なんてたいしたことはないのだよ。 でも、どんな柄を着たって人間だからな。 そういうふうな写真を撮っていくわけだよね。 それが非常な好奇心を持って撮られている。 そういうところにあの人の私があるのだろう。
★白鳥の精神/小林秀雄×河上徹太郎★
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