河上 でも、とにかく小林は好きだったな、白鳥さんが。
小林 そう。
◇
河上 ぼくが忘れられないのは、 二人でいっしょに軽井沢で終戦直後に 白鳥さんを訪れたことがあったろう。 おそらく君ははじめてだろう。
小林 いや、外では前にもお会いしたことがある。
河上 別れて二人でぼくのうちへ帰って、 君は興奮して酔っていた。 あのとき、きみは惚れこんじゃったからな。
◇
河上 あのあとだっけな、 創元社に遊びに来て、 正宗さんが座談会のようなことを やった時だったっけ?
小林 創元社にはよくみえたよ。
河上 その時、きみが酔って送りに行ってね、 円タクをつかまえて、正宗さんが早く家に 帰りたいのに、きみは首を円タクののなかに 突っ込んで、何かしきりに喚いでいたっけ。 おぼえているよ。
小林 そうか、そんなことがあったかな。
河上 あったよ。
小林 創元社などにみえたときには、 リュックを背負ってね。 あのころはまだ戦後のことで、 リュックを背負って、そのリュックを逆さまに 背負っているのだよ。ハッハッハ。 そうすると創元社のやつが驚きやがって、 先生、逆さまだというと、 どっちでも同じことだ(笑)。
★白鳥の精神/小林秀雄×河上徹太郎★
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