野坂 だけど、やっぱり中島らもっていうのは一種の天才ではあるね。 こんなイベントをやって、これだけのお客を集めるんだから。 他の人がこんなことをしても集まらないですよ。 らもはいてもいなくてもいいんだけど、やっぱりいないと誰も来ない。 だから、いまのうちに、らも人形っていうのを作っておいたらいい。 どうせ、らもは早く死ぬからね。 人形の首は持ち運びに便利なように、ハズれるようにしとけばいいな。 ときどきロボットみたいに動くようにしといてもらえば、もっといい。
らも 野坂さんも評論家だな、下手な評論家。
野坂 僕は評論って書けないの。 なんとか論とか…論がつくと途端にダメになっちゃうのね。
らも おれは書ける。
野坂 灘校出身だから書けると思うよ。 灘校はそういうことをよく勉強させるから。
らも 灘校っていうのは陸軍中野学校みたいなとこよ。 受験一本。 東大百人、京大五十人、早稲田・慶応二十人合格。 大阪芸大一人。
野坂 いま、中島らもがあるのは、完璧に大阪芸大にしか 入れなかった劣等意識があったからこそだね。 東大に入ってたら、いまの中島らもはなかった。 にしても、灘校出身の世界観だなぁ。
らも おれは入ったとき八番だったよ。
野坂 八番でこれだけ威張る人も珍しい。 オリンピックだと、入賞って奴か。
らも 上にまだ七人もいるのか、世間は広いと思ったな。 そのうち、ローリング・ストーンズを聴いたり、 ボードレールを読むようになって、 勉強なんかしている暇がなくなったんだよ。 で、大阪芸大に行ったのね。
野坂 あそこはなかなか入るの、大変なんですよ。 入る決心するのがまず大変。 試験中に言い訳しなきゃならない。
らも ロックンローラーになりたかった。
野坂 ボードレールはどうなったの?
らも ボードレールでロックしようと思った。
野坂 僕は最初、「わァれは海の子、しィらァなァみのォ♪」 っていうヤツ、あれをボードレールが作ったと思ってた。 ボートレースをボードレールとを間違えてたんだね。
らも あの……、野坂先生の小説はあまり好きじゃないけど、 生き方が好きです。 野坂先生の小説は、単語のかたまり、ビート。
野坂 これ以上のほめ言葉はないと思いますね。 要するに単語がかたまって文章になるわけだから。 単語でもなんでもない言葉が固まってるのが、 最近の小説なんですよ。 だから、僕は、小説はダメだというふうに思ってるわけです。 ……実にシーンとしましたね。
鮫肌 まともな話を急にされるから(笑)。
らも いまの話、聞いてなかった、おれ。
★イッツ・オンリー・ア・トークショー/野坂昭如×中島らも★
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