宿題

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2006年05月22日(月) 森繁自伝/森繁久彌
或る日、村会を開いて、どこの家にも必ずあるという春画を集め、
どうせ持っては帰れぬものだから、これを兵隊たちに売ろうじゃないかと
議案がまとまった。
貧すりゃ鈍するの譬えか、しかし鈍どころではない、品も格もかなぐり捨てて、
ただ少しでも長く己が食いぶちを作ろうとする姿は、
祖先からの生活力の強さであろう、笑うものは一人もいなかった。

ところがこの迷案も、猫に鈴をつける話で━━この名品をいかにして
ソ連兵に売るかであるが、コミュニストといえどもこれの嫌いなものはなかろう、
というところまではよかったが、道行く旦那をつかまえての流し即売ということで
話が落ちついた。
まあ、手はじめにそこからやれば、大量取引の道も開けようという、
あやふやな商算となった。

ピストルを擬してついて来たこわい顔の兵隊が、
やがて大鼻子をほころばせ、正直にポケットの金を探りながら、
やっきになって買いあさるさまは、思想も主義も超越した人間の姿に他ならなかった。
そのうち、一人が二人を紹介し、二人が四人を━━やがて下士官も将校もあらわれて、
大方を売り尽くした時には、それらが米や野菜や肉と変わって各戸に配られ、
久しぶりにスキ焼の香りのする窓も見えたのは、
こちらも笑えぬ春の絵姿であった次第だ。


★森繁自伝/森繁久彌★

マリ |MAIL






















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