幸福は化学物質から成り立っています。 そのことを知るまで、わたしは質疑応答の方法によって幸福を追求していたものです。 そして年をとった父親に、 「おとうさん、これまでの人生でいちばん幸せな日はいつだったの?」 とたずねました。 「日曜日だったな」 と父は答えました。 父は結婚後まもなく、オールズモビルの新車を買ったそうです。 第一次大戦前のことです。父はインディアナ州インディアナポリス州に住んでしました。 さっき申したとおり、父は建築家でした━━ペンキ屋でもありました。 で、若き建築家兼ペンキ屋の父は、ある日曜日の午後、新しいオールズモビルに新妻を乗せて、 インディアナポリス五百マイル・スピードウェイに行き、無断侵入をして、 煉瓦敷きの走行路に出ました。父と母はそこを何周も何周も走り回りました。 それが幸福の一日でした。 その日のことを話したとき、父はすでに自殺によって母を失っていました。
★米国芸術協会における公演(1971年)/カート・ヴォネガット★
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