払ってあげるといわれて私は美輪さんの家へとんで行った。 祭壇がしつらえてある部屋で、お経を上げる美輪さんの後ろに虚脱したように坐っていた。 悪夢の中にいるようだった。 しかしそのうち、なぜだ、なぜこんなことになるのかという怒りに似た思いは少しずつ消えて行き、 私の頬を涙が伝い出した。 美輪さんの慈愛が胸に染みた。 なぜ美輪さんがさほど親しくもなかった私のために、ここまでしてくれるのか、 それに思い至った時、凍土に春の雨が染みて行くように、私の心は潤ってやわらかくなった。 今から思うと美輪明宏さんは私の人生が変っていく最初の案内者だった。 私が美輪さんのすべての言葉を疑わずにそっくり受け取ったのは、 彼の霊能力への信頼というよりもあの華美な装いの奥にある「慈愛」ゆえだったと思う。 それに触れたことによって、私は胸の奥底に慈愛を秘めている人の心に敏感になった。
★私の遺言/佐藤愛子★
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