読者の中には、いったい何の根拠があって美輪明宏の言葉を信じるのか、 という人が少なくないだろう。 私の友人たちもみなそういった。 なぜといわれると私には人を納得させる返答はできない。 とにかく私は美輪さんを信じた。 信じなければならなかった。 なぜ信じるのかなどと、えらそうにいってほしくなかった。 溺れようとしている者は目の前のものにしがみつくしかないのだ。 溺れる者は目の前の救助の船を疑わない。 人の好い人は困ったように、 「ホントにそんなことってあるのかしらねえ」 と半信半疑に言うだけ、合理主義者は話もろくに聞かずにそっぽを向くだけである。 私のいうことを信じて助言してくれるのは美輪明宏その人だけである。 たとえその助言が間違っていたとしても私は美輪さんを信じた。 信じるというよりも「縋った」のだった。
★私の遺言/佐藤愛子★
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