ぼくはトロンボーン一本やりだったが、横浜のクラブではサックスを仲間から借りて演奏することもあった。 ただしブローだけ。 ブローというのは単純な一つの音、ズッカン、ズッカン、ズッカンという アフタービートのリズムだけを奏でることだ。 この演奏はとくに黒人兵士が喜んだ。 そんなとき、ぼくはちょっとした俳優気分を味わいたくなった。 サックスでブローを続けながら、クラブの客席の通路を体中でリズムをとりつつ練り歩く。 通路が終わりになると、そのままひょいとドアを開けて外に出てしまった。 歩いているうちに伊勢佐木町の通りへ……と。 いつの間にかぼくの周囲は黒人兵でいっぱい、全員が手を叩き、肩をゆすり、 尻を振りながらアクションたっぷりに練り歩く。
★七人のネコとトロンボーン/谷啓★
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