ぼくはハナ肇には面と向かって名前をいったことはない。 不思議なことにぼくは恥ずかしくて彼にハナちゃんと呼びかけられない。 といってハナさんもそらぞらしい。 本名の野々山というのはもっとシラける。 じゃどうしていたのかというと、実は口笛を吹いていた。 それも普通の口笛ではない。 舌と唇の間から空気を出した「スィー・スィー」 ──ま、「C」という発音のちょっと変わった音。 彼はぼくが照れ屋で、年下のものにも姓の下にチャンとかクンをつけて呼べないのを知っているから、 口笛で合図をすると「おうよ」と答えてくれた。
★七人のネコとトロンボーン/谷啓★
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