幾分真面目な表情で工也は言った。 「自分より馬鹿な奴の家来になることがどんなに楽しいかわかるでしょう?」 「その馬鹿を好きならね。」 「そうなんだ。」嬉しそうに叫ぶ。「やっぱりあなたはそういう人だっだんだね。」 麻季子は背理を思った。背理は決して馬鹿などではなかった。 ただ公平に見て、麻季子は必ずしも全面降伏しなくてもよいものを、 わざと自分をずっと引き下ろして位置づけていた。その方が都合がよかったから。 背理もまた、それを知りながら知らないふりをして主人を演じてくれていた。 常に相手の優越を許すことは辛くないとは言えなかったが、 主人と奴隷ごっこをやめて友達ごっこをするとしたら自分たちはどうなってしまうのか、 麻季子には見当がつかない。
★セバスチャン/松浦理英子★
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