宿題

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2005年03月18日(金) デッドアイ・ディック/カート・ヴォネガット
父たちは、わたしを小さなキッチンの中から、だだっぴろい、すきま風の入る一階へと、

しょっちゅうひっぱりだした。わたしがたくましく丈夫に育つように、そうしたのだと思う。

しかし、いつもわたしはすぐにキッチンの中へもどってしまうのだった。

そこはとても暖かくて、いい匂いがするからだ。そこはまた滑稽でもあった。

その家の中で意義のある仕事が行われている唯一の場所なのに、

中は船の厨房のように窮屈だったからだ。

すべての空間を独占しているのは、なにもしない人びと、ただ給仕を受けるだけの人びとだった。

そして、寒い日には、いや、それほど寒くない日でも、ほかの召使たち、

庭師やロフトのメイドたちなど、黒人ばかりが、料理女とわたしのいるキッチンへ集まってきた。

彼らはせまい場所へ群がるのが好きだった。

小さいころには大ぜいの兄弟姉妹と一緒にベッドで眠ったものだ、と話してくれた。

わたしにはそれがすごく楽しいことのように思えた。

いまもすごく楽しいことのように思える。

そのこみあったキッチンの中では、だれも気がねなくぺちゃくちゃ、

ぺちゃくちゃとしゃべっては、げらげら笑うのだった。わたしも会話の仲間入りをしていた。

わたしはおとなしくてかわいい坊やだった。だれからも好かれていた。

「あんたはどう思いなさるね、ルディ坊ちゃん?」と召使のだれかがたずね、

わたしがそれに対してなにか答えると、みんなわたしがなにか賢明で、

ことさら滑稽なことをいったようなふりをするのだった。

もし、子供のころに早死にしていたら、わたしは人生が

あの小さいキッチンのようなものだと思っただろう。

もう一度──冬の一番寒い日に──あのキッチンの中へもどれるなら、

わたしはどんなことでもしただろう。


★デッドアイ・ディック/カート・ヴォネガット★

マリ |MAIL






















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