私は人生に罹ってしまった。人生を患ってしまった。
最初は、ほかと区別のつかない無のひとひらだったのに、やがてのぞき穴がぽっかり開いたのだ。
光と音が流れこんできた。
いろいろの声が、わたしと、わたしの環境を説明しはじめた。
その声がいうことに抗議はできなかった。
その声が、おまえはルドルフ・ウォールツという名の少年だといえば、それで決まり。
その声が、おまえの住んでいるのはオハイオ州のミッドランド・シティだといえば、それで決まり。
その声は一度も静かになったことがない。
それどころか、毎年毎年、細かいことをつぎからつぎへ積み重ねていく。
いま、その声がなんとほざいていると思いますか。
今年は一九八二年で、わたしは五十歳なのだそうだ。
★デッドアイ・ディック/カート・ヴォネガット★
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