それにしても、ものを書いたり、講演したりすることを、
私ごときのものがと思うと恥ずかしくて身の置きどころのない心境になります。
最初はおっかなびっくりでした。ですから、私にはもう一人のお化けがついていて、
それが勝手に本を書いているのだと思うことにしたのです。
お化けの書いたものを、私が清書しているだけなのだから、そう気にしないこと、
と自分にいい聞かせるわけです。
「下手な文を綴って、私のお化けはまったくろくなことを書きゃしないんだから、
私が自分で書いたのなら、もっともっとうまく書けたのに」
とつぶやきます。
そしてまた、講演の話が持ち込まれます。
皆さんにお聞かせするような話が私にできるかしらとちゅうちょします。
けれど、ほら「チャンスは前髪で摑め」といいますから、とにかく前に歩め、
というわけでお引き受けするのです。話している間中、
「これは私がしゃべっているのではないのよ、私のお化けが勝手におしゃべりをしているのよ」
といい聞かせ続け、「いつまでおしゃべりしているんでしょう、もういい加減にして消えろ!」
と、私は私のお化けに命令して、講演を終わりにします。
そんなわけで、講演料をいただく時も、もちろんお化けが手を出していただくのです。
私はすごい照れ屋というか、一見とても活発で人見知りしないようだけれども、
昔からとても恥ずかしがり屋で、少女のころはこれをいうことでもないのに
すぐ赤くなって困ったものでした。
そういう感覚は今でも尾をひいているのではないかと思うことがあります。
「冗談じゃありませんよ。七十四という年齢で、一人でアメリカ、
カナダを回って講演して歩いていて、自信いっぱいでしょうに」
といわれるでしょうけれど、それとて、
「私は、もう一人、私のお化けをひきつれて歩いているから、それが頑張ってくれるんです」
といった感じなのです。
★チョッちゃんだってやるわ/黒柳朝★
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