十日ぐらい経ったころ、パパから小学生のような字で手紙が来ました。
「こちらはものすごい歓迎を受けています。でも僕はちっともうれしくない。
ママを愛している。別れがこんなにつらいとは思わなかった。
毎日帰りたい気持ちでいっぱいだ。手紙をください」
と住所が書いてありました。
それはかわいそうなほどというか、大の男の手紙とは思えないものでした。
気にはなりましたが、私が帰ってきているというので、
毎日のように小学生時代の友人が遊びに来たりしてあわただしく日が経ち、
返事を出さないでいるうちに、ある朝、満州から電報が来ました。
家中何事かと驚いて、私の周りに集まってきました。皆にかこまれて電報を開くと、
「テガミクレ キガクルイソウダ モリツナ」
と書いてありました。
みんなは開いた口がふさがらないようでした。私はとても恥ずかしく、
そしてパパのあの怒り狂った時の恐ろしい形相を思い出してハッとしました。
恐怖にふるえながら、すぐに返事を書きました。
こんなにひたすら思われることは女として喜ぶべきことか。家の者たちは、
「あんな電報を配達した郵便屋さんも、驚いたろうなあ」
といって大笑いしていましたが、私はパパが帰国した後の恐ろしさに身もふるえる思い。
せっかくの故郷の幸せな日々がふっ飛んでしまう思いでした。
永久にこの家にいられたら、どんなにのびのびしていいだろうとふと思ったりしたのが、
テレパシーでパパに伝わってしまったのでしょうか。
★チョッちゃんだってやるわ/黒柳朝★
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