模写が多いのだが、知らない人が見ると私が図案を考え出したように思うらしい。
だから、図案というものに感心した人が多かった。
確な、工芸的な、古い模様の蔭に隠れて私は私なりに装幀業を営んできたのだが、
(この中に、辱しいと思うものはあるかね)と言う愚問に接して、
専門家という者をハタと私は意識した。
専門家という者は、たとえば烏がカアカア鳴く様なものである。
烏でも社長でもいゝ。そのものを否定するのは勝手だが
(君はカアカア言って、辱しくないかね)と聞きたくなるのは、良かれ悪しかれ愚問である。
詰まらぬ装幀だが、私が二十年間に二千点も人から求められていた間に、
彼は何をしたかというと考えていたのである。
考えていた男が現れて、私に言った言葉だった。
★本の装幀について/青山二郎★
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