クインテット・ライブ・ダブは、ジャズを喰い殺そうなどと言う、
獰猛な音楽ではありません。
死体を蘇生させようとしたり、香水を振り、死に化粧を丁寧に施すような音楽です。
これは僕にとってジャズ・ミュージックが、死体のような存在だからでしょう。
しかし、喰い殺してしまえ。という、強いエクスタシーを伴った衝動が、
UAと一緒にいると高揚してくるのです。
これは、 UAにとってジャズというものが死体ではないこと、ジャズだけではなく、
彼女にとって全存在が「生きている物」だということ(はっきりと断言しますが、
彼女はアニミストです。僕のようなフェティシストのインテリゲンチャとは180度生き方が違う)
、僕が「喰い殺す者」というのを女性の仕事だと信じて疑っていないということ。
等が理由ではないかと思われます。
ことほど左様に、僕が何故、UAと組むかというと、獰猛かつ優美な仲間として、
ジャズという瀕死の歴史に対して、
食いちぎればまだ生き血が噴き出すという事によってしか証明できない何か、
これは一種の逆説的な蘇生術だと思いますが、
それを皆さんの眼前で祭壇化して行えると確信したからです。
最初に申し述べましたとおり、この確信は、
彼女と最初にステージを共にした瞬間からの物で、
それは未だに揺るぎないどころか、毎日のように深まってゆくので、
一種の心地よい恐怖感すらあります。
さて、それでは、チケットを手に入れられた、たったの1000人ほどの皆様
(大阪は未だチケットあります)京都で、大阪で、横浜で、
あなたにとってのジャズが死体であれ、瀕死の病体であれ、
生き生きとした生命であれ、何であれ、喰い殺し、喰い殺される関係。
昇天し、蘇生する関係。
そして何より、エレガントで、クールで、ブルーな関係を共有する歓びを。
ステージ上の温度実に50度を超えると言われる西部講堂ですら、
僕等はカフスにまで気を配った正装で赴きます。
何せこれは、祭壇ですから。
いつでも申し上げておりますとおり、音楽と服には密接な効用関係があります。
恐らく、アルコールやドラッグよりも。
ですから、夏物の正装や礼服で入らした方には、特別な効用があります。
と断言しましょう。
ついさきほど UAから、この、たった数回の演奏のために新しいドレスを入手した。
という伝聞があり、僕は犬歯が一瞬にして数ミリ尖ったような気持ちになりました。
歌舞伎町は今さっきやっと眠りに就きました。
それでもまだ、僕の犬歯は尖ったまま眠れそうにはありません。
50年振りの「真夏の夜のジャズ」を、紳士淑女の皆様。
どうか皆様なりの正装で心ゆくまでお楽しみ下さい。
汗と返り血を拭うハンカチーフもお忘れ無きよう。メンバー一同でお待ちしております。
★日記(7月16日)/菊地成孔★
|