「どうも女の子が泣き出すと困るよ。チョコレエト玉でも買ってきてみようか」
「チョコレエト玉もわるくないが、早く夕飯にしたいな。
おれはすっかり腹がすいている」
「おれも腹がすいてるんだが、チョコレエト玉は君の分じゃない。
女の子にくれてみるんだ。君は早くこの葉っぱを集めて、おしたしに作ってみろ。
おれの作った葉っぱはきっとうまいはずだ。こやしが十分に利いてるからね」
「しかし、こやしに脚を浸けていた葉っぱを──」
「嘆かわしいことだよ。君等にはつねに啓蒙がいるんだ。
こやしほど神聖なものはないよ。その中でも人糞はもっとも神聖なものだ。
人糞と音楽の神聖さをくらべてみろ」
「音楽と人糞とくらべになるものか」
「みろ。人糞と音楽では──」
「そうじゃないんだ、音楽と人糞では──」
「トルストイだって言ってるんだぞ──音楽は劣情をそそるものだ。
そして彼は、こやしを畠にまいて百姓したんだぞ」
「ベエトオヴェンだって言ってるぞ─」
★第七官界彷徨/尾崎翠★
|