こおろぎのことなんか発音したら、あなたはたぶん嗤われるでしょう。
でも、私は、小さい声であなたに告白したいんです。
私は、ねんじゅう、こおろぎなんかのことが気にかかりました。
それ故、わたしは年中何の役にも立たない事ばかし考えてしまいました。
でも、こんな考えにだって、やはり、パンは要るんです。
それ故、私は年中電報で阿母を驚かさなければなりません。
手紙や端書は面映くて面倒くさいんです。
阿母は田舎に住んでいます。未亡人、あなたにもお母さんがおありになりますか。
ああ、百年も生きてくださいますように。
でも未亡人、母親って、いつの世にも、あまり好い役割ではないようですわね。
娘が頭の病気をすれば、阿母は何倍も心の病気に憑かれてしまうんです。
おお、ふぃおな・まくろおど!
あなたは、女詩人として生きていらした間に、科学者に向って、
一つの注文を出したいと思ったことはありませんか──
霞を吸って人のいのちをつなぐ方法。私は年中願っています。
でも、あまり度々パン!パン!パン!て騒ぎたかないんです。
★こおろぎ嬢/尾崎翠★
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