浦河に来たばかりのころをふり返って、清水さんにはもうひとつ思い出すことがある。
それははじめて川村先生の診断を受けたときのことだった。
この人なら話してもいいだろうと思い、
涙を流しながら七年間のつらい気持ちや苦しい経験を話し続けていたときのことである。
思いのたけを聞いてもらったと思いながら先生の顔を見あげると、
くちびるの端がヒクヒクしている。
おかしいなとは思ったけれど、そのときは考える余裕もなかった。
いまにして、それがなんだったかよくわかる。
「もう、あのときの先生ったら、必死にこらえてたんですよね、おかしくて笑い出すのを。
人がぼろぼろに泣いてるっていうのに」
★悩む力/斉藤道雄★
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