「僕は、むかしよりは思いやりも少ないし、優しさもなくなった医者になりました。
障害者がこの世で幸せをつかむためにはですね、
とくに私の思いやりや善意だけではなんともならない、
むだなことはしなくなったということです。
むしろそんなところに(患者を)囲いこんで、せまくるしいところに追いつめていくような、
そしてそんなことをしてしまう自分も(また)追いつめられていくということから
卒業したいなというのが、最近私たちがいちばんこころがけてやっていることです」
講演会場のまんなかにはべてるのケンちゃんがすわっていた。
肝心なやりとりの最中にケンちゃんは大きなあくびをしていた。
横の方にすわっている早坂さんは眠さのあまり、頭をかかえて傾いている。
会場の外では働き者の浜長さんがしっかりべてる「根昆布」を売っていた。
今日もまた「治せない医者」がこむずかしいことをいっているという顔をして。
★悩む力/斉藤道雄★
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