八木 古今書院の月給は、住み込みで八円でした。時間給じゃないですよ、月給ですよ。
南陀楼 いまの感覚では、いくらくらいになるんですか?
八木 そうですねえ、まあ五十銭あったら日曜日一日遊べましたね。
コーヒー一杯がだいたい十銭だったから。昼飯はトーストなんか食べて、
本屋で五銭の雑誌を買って、喫茶店でコーヒーを飲んでケーキを食べる、映画を観る。
それで夕方までは時間をつぶせました。
松川 じゃあ月給八円というのは、まあまあ良かったんですね。
八木 そうなるかなあ。ともかく、そういうもんだと思っていたから、
給料が安いなんて不満はありませんでしたね。家から仕送りをしてもらったこともないし。
岡島 僕も、戦前に古本屋で働いていた人に聞いたら、
あんまりお金の心配はしなかったっていうんですよね。
八木 昭和三年(一九二八)に、巌松堂がストライキやるんですよ。
その要求には、賃上げよりも、休みを増やしてほしいという項目や、
名前の後ろに「どん」を付けるのを止めてくれという項目があったそうです。
名前呼ぶときに、「○○どん」という。
このあと、巌松堂の向かい側にあった岩波書店でもストライキが起こり、一誠堂にも波及しました。
私の知らない頃のことだけど。
松川 やっぱり「どん」ていわれるのはイヤなんですかね?
南陀楼 しかも、要求の結構前の方に来ている。
★見てきた古本界70年 八木福次郎さん聞き書き/スムース文庫★
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