坂下君と話していると、いろんな本を読んでみたくなる。
「ドラえもん」という漫画の本も、私は二冊買った。
小学校の絵の教師である彼と、あるとき、漫画の流行は子供の絵に影響があるかどうか、
という話をしているうちに、ふだん漫画というものを全く見ていない私には、
こういう話をする資格がないことを痛感したので、私は彼から、
いま子供にいちばん人気のある漫画を教えてもらって、買いに行ったのだ。
すると、その「ドラえもん」という漫画は十七巻あるのだった。
全部買うわけにはゆかないので、初めと終りの一冊ずつ、一巻と十七巻とを買ったが、
ちょうど「ドラえもん祭り」というのをやっているところで、店員は私に、
「お子さんは男ですか、女ですか」
と訊き、私は、私が読むのだとも言い兼ねて、しかし、私は男であるから、
「男」
と、小さな声で答えると、返事によって違うらしい景品の袋を選んで手渡された。
★気まぐれ美術館 セザンヌの塗り残し/洲之内徹★
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