うわーっ、と私はいつしか激しく泣き始めてしまった。
とはいえなぜか、泣いているのが私で私が誰であるかが少しは判るような気がしてきたのだ。
しかしそれは「私は自分が誰だか判らないのだ」という悲しみの気持ちと、
まったく対等に心の中で押し合っていた。
◇
広報は言う、毎号必ず言う。──「私達はこの国を完全とは思いません。
しかし多くの犠牲と悪徳と集団演技の上に強権発動で出来たこの蜃気楼国家を、
私達はまるで二人の母親が幼い女の子を守る時のように、どんな汚い手を使っても守ることでしょう。
そして同時に我が国家は外交上はその汚さを一切見せず、うわべばっかり激しく正しく、
ムナクソの悪くなるような偽善的面子の立て方をせねばならないのです」。
◇
――全員一致の議決、本年の記念授業最終プログラムは、幼女フィギュアパーツ使用の圧殺です。
「男性」も今までさんざんお世話になったフィギュアにお返しされて満足でしょう。
実際に手掛けた少女と感触が違うと随分文句は言っていたようですが、
まあ私達はせいいっぱい彼の面倒を見ましたのでね、
なおこの処刑法もクラス全員の決議、議長は私二尾銀鈴、副議長と書記が猫沼きぬです。
また私達の発表は。ふたりの合作で処刑ライブとその時の教室の様子、皆様の反応をモニター、
ビデオに写し、かねてより用意しましたCGとその場で合成するというVJ的映像表現です。
またこの際にそれに合わせた室町歌謡の曲に二人で詞を付けたものが流れます。
歌謡の題名はウラミズモの悩み、謡曲の謡と違って三連符的でジャズを思わせるような
このいわゆる狂言ノリの、ニートな狂言小唄をお楽しみください。
VJのみどころは処刑に現れた神獣の子が踊りながら圧殺に加担するところです。
この神獣のリアリティを出すのにふたりで鰐園に通ったりヒヨドリの子をビデオで撮ってみたり。
◇
私はこの世界全体を幻想かもと思うことがあった。
でも幻想の中に紡いだ私の神話だけは真実だ。私が死んでも書いたものが消えても。
★水晶内制度/笙野頼子★
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