宿題

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2003年11月02日(日) 母なる夜/カート・ヴォネガット
ジョーンズは完全には狂っていなかった。

古典的な全体主義思考で困るのはどの歯車にも、こわれているにせよ、

円周のある部分にはきちんと歯がならんでいて、その部分には実に精巧に作られ、

かつ申し分なく手入れされているということである。

したがって地獄のカッコウ時計は──八分と二十三秒のあいだ正しく時を刻んだあとで、

いきなり十四分先へ飛び、六秒間正確に動いたところで二秒先に飛び、

二時間と一分のあいだ正確に動いたあとで一年先へ飛んでしまう。

欠けている歯とは、ほとんどの場合、単純で明らかな、

十歳の子供でも知っていて理解しているような真理である。

故意に歯車の歯を抜くこと、故意にある種の明らかな知識を拒否すること──

それによって、ジョーンズ、キーリー神父、連盟副総統のクラップタウアー、

それに黒い総統といった互いに矛盾する考えの人々が比較的平穏に

一つ屋根の下で暮らすことができるようになった──

それによって、わたしの義父は一つの心の中に強制労働の女たちへの無関心と

青い壷への愛を同時に宿すことができた──

それによって、アウシュヴィッツ司令官ルドルフ・ヘースはアウシュヴィッツのラウドスピーカーから

偉大な音楽と死体運搬係への呼びかけを交互に流すことができた──

それによって、ナチ・ドイツは文明と狂犬病のあいだにさしたる違いがないことを感得できた──

これがわたしがかつて見た狂気の国家について、その数多くの人々について、

わたしのなし得る精一杯の説明だ。


誰もわたしをほめてくれないようだから、自分でほめることにしよう──

つまり、自分の思考機械の歯を一本たりともいじったことがないと、ここで言おう。

欠けている歯はあるだろう──生まれたときからなかった歯、結局はえてこなかった歯。

歴史がクラッチなしでギア(歯車)を入れたために欠けてしまった歯もあるだろう──

しかしわたしは自分の思考機械の中にある歯車の歯を故意に折ったことは決してなかった。

自分にむかって、「この事実は自分には不要だ」と言ったことは決してない。

ハワード・W・キャンベル・ジュニアみずからを称賛!

この老生にいまだ人生あり!

そして人生のあるところには──

人生がある。


★母なる夜/カート・ヴォネガット★

マリ |MAIL






















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