まァ、二年に一回くらいの周期でしんこくな迷いが生じるのです。
思いたつと、直ちに実行にうつす、軽はずみな、性格で、
「あたしマンガやめたッ!!」
紙、ペン、ふで、物さし、ハケ、参考書をズタズタにして、火をつけます。
このケムリがあがるや、インディアンがのろしをみとめたごとく、家中おどってよろこびます。
だれ一人としていさめる者はいないのです。
私が八の字をよせて案を考えているうしろ姿が、いやだと皆で叫ぶのです。
母「やりたい!と思うことをドンドンやってごらん、大さんせいヨ」
「でもサ、あたしがやめたら姉妹社どうなる?」
姉「コセコセすんな!あんなもなァ明日やめたっていいんだ!
ヤタイでも引けば何とかたべていけるよ」
そこで、自由の身となった私は、紙ネンドを買ってきて、くる日もくる日も
人形やどうぶつをつくります。
「上手ねー!マンガよりいいよ」
「ほんと!」
ししゅうをします。
「くろうとハダシだわ」
ぬいぐるみの動物をつくります。
「なにをやらせてもこのこはうまいヨ!」
バカじゃないかしら、うちの家族!!
◇
「いじわるじいさん」という外国マンガが、文春のマンガ読本に、レンサイされていました。
主人公はおバアさんのほうが、グッと迫力あるのになぁと、思いながら見ていました。
サザエさんとて、コドモさんに無害のホームマンガ。
読まれる方は、無害でもかくほうは、取材はんいが、かぎられているから、四苦八苦です。
ザッシ、エホンもふくめると七千回以上かいたのですから。
ヒューマニズムに、あきていたところに、サンデー毎日しんねん号8ページをたのまれ、
「いじわるばあさん」をかきました。
◇
妹の主人が読売しんぶん社の記者なので、ぎりの姉のヘンクツぶりにおどろいて、
「おねえさん、もっとどんどん知しき人や文化人とつき合いなさい。必ず得るところがありますヨ」。
たとえ得るところがなくとも、私は犬とねころんでいるほうをえらぶナマケモノ。
★サザエさん うちあけ話/長谷川町子★
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