母は日によって、コドモのカオをわすれ、よその人だと思いこみます。
「わたくしも、昔はやりてだなんていわれたこともあります」
こちらもちょうしを合わせて、
「ハーさようですか」
「しかしそんなことはことばみんなむなしくくだらないことばかりです」
「フーン、すると、人生なにが一ばん大切なのでしょう?」
「ハイ、それはけんそんでございます」
すると、きおく力は死んでも、思想思考のさいぼうは別なのかな?……
(反抗期を過ぎて、おばあちゃんをとても大事にしていた姪が結婚し、海外に)
タカコは、母とのわかれが一ばんつらかったらしく、
「おバアちゃまがなつかしいあまり思わずこちらのお年よりに声をかけたり、
にもつをもってあげたりします」
という便りがきます。
母はマゴの名を一度もよびません。
「わたくしは、父も母も島津はん士の家でして、
母は、おヒメさまのおあそび相手に、ごてんにあがったことも、ありました……」
としきりに親を恋いしたうのです。
姉は
「一しょに昔話もできないなんて…もうお母さんはいないも同じだ……」
と、こぼします。
諸行無常です!
「キミ、なげきたもうな、すべてこの世はうたかただよ、絵のてんらん会でも見にいこう!」
「ウン、いこういこう!!」
かくしてよそおいをこらした姉妹は、つかの間の楽しみをもとめ、
まちにくり出すのでありました。
★サザエさん うちあけ話/長谷川町子★
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