しかしやはりはじめてのせいか、垂直になってくると息子の動きはピタリと止まり、
手足が不安そうにぎこちなくなるのだ。
「お父さん、ザイルもっと引いて」
やがて息子は切なそうな声を、下から見上げるようにして出した。
「お父さーん」少年の短く刈った頭の下を、すがるような眼が光っていた。
「お父さんのこと好きか」と声をかけると息子は青い顔をして黙っていた。
「ザイル引いて!落っこっちゃう」「だからお父さんのこと好きか」
「……」
息子は汗をかきながらやっとのことで岩場にたどり着いた。
崖の上からあたりの風景を二人で眺めていた。
横でミカンを食べている息子を見るとあわれでならなかった。
暗くなる頃家にたどり着くと、息子は母親の膝にくるまるようにしてもぐりこみ
「僕は悲しかった」と涙をためていた。
★黄色い信号/沢野ひとし★
|