父の引き出しには、その三角に折られた小さな紙包みが幾つも入っています。
中身は薬ではありません。
包みの表には日付けと子どもの名前が書かれています。
マヤと私の二人の子どもの爪切りの後に散らかる爪と、
乳歯の抜け代わる時期になった子どもの、虫歯の跡が黒く残る抜けた乳歯などが入っているのです。
彼が私たち子どもの成長を記録していてくれるのが、なぜなのかとても気持ちを落ちつかせてくれます。
子どもが彼を嫌いにならずにすんだのは、彼に愛情を注がれたとか大切にされたからというよりは、
このことからだったような気がします。
今、私の赤い小物入れのキャビネットには、自分の子どもの爪や乳歯が同じように入っています。
子どもの鼻くそと、ネコの爪や髭や髪の毛も交じっています。
それに登久子さんが放りっぱなしにしてあった、爪切り後の彼女の足の親指の爪も。
★月の家族/島尾伸三★
■奄美の言葉(シマ・ユメタ)では「ハゲー!」という感嘆符があるそうで、 なんだかいいなぁと思いました。使いたい。
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